ある企業で、Webサイトのリニューアルを検討する会議が開かれたとします。参加するのは、営業、マーケティング、制作の責任者です。経営者が「今のサイトは古く見えるので、デザインを刷新したい」と話すと、営業担当者も、顧客からデザインについて意見をもらったことがあるため、賛成しました。マーケティング担当者も、制作担当者も、デザインの刷新が不要だとは考えていません。こうして会議は、比較的早い段階で、デザインリニューアルの方向にまとまりました。
対立が少なく、会議は効率的に進んだように見えます。しかし、もし誰かが「その前提には疑問があります」と発言していたら、議論は変わっていたでしょうか。
異なる意見が出る会議は、よい判断ができるのでしょうか。
反対意見があれば、ほかの情報を検討するきっかけになるかもしれません。一方で、異論を出しやすい雰囲気や、多様なメンバーがそろっているだけで、判断の質が高まるとは限らないようにも思えます。
今回は、反対意見、心理的安全性、集団の多様性についての研究を手がかりに、会議で異なる意見をどう生かせるのかを考えてみたいと思います。なお、本文中の企業の事例は、論点を説明するための仮想例です。
反対意見があることは、判断の質を高めるのか
集団意思決定の研究では、適切な判断に必要な情報が参加者の間に分散している状況を、「隠れた情報構造(Hidden Profile)」と呼びます。こうした状況では、話し合いが、全員が知っている情報に偏りやすいことが報告されています(「会議で話し合うほど、なぜ重要な情報が見落とされるのか?」)。では、会議で重要な情報を引き出すためには、どうすればよいのでしょうか。一つの可能性は、異なる意見を持つ人がいることです。
人間と心理会議で話し合うほど、なぜ重要な情報が見落とされるのか?隠れた情報の実験から、会議で情報が使われない理由を考える。
2006年、シュルツ=ハルトらは、隠れた情報構造を持つ課題において、議論前の意見の違いが意思決定の質に与える影響を調べました。研究には、135組の3人グループが参加しています。参加者たちは、人材選考に関する四つの選択肢について議論しました。結果は、議論前の意見の分かれ方によって異なりました。
議論前の意見の違いが、
ほかの情報を検討するきっかけになる
隠れた情報構造を持つ人材選考の課題で、議論前の意見の違いと判断の質を比べた
議論前から全員一致同じ案を支持している
対立が少なく、会議は効率的に進みそうに見える
- 最初の判断を支持する情報ばかりに注目する
- 自分だけが持つ別の情報の重要性に気づきにくい
全員が同じ不適切な候補を支持していたグループは、隠れた情報の問題をほとんど解決できなかった
議論前から意見が分かれる異なる案を支持している
適切な答えを見つける割合が高くなった
- 最初の結論を当然のものとして扱わない
- ほかの情報を検討するきっかけが生まれる
議論前に正しい候補者を支持している人がいなくても、判断が改善される場合があった
必ず反対する人を置けばよい、
という意味ではない。
研究が扱ったのは、議論前から存在する意見の違い。反対意見を演じることが同じ効果を生むとは証明されていない。異論があっても、根拠を検討できなければ判断は難しくなる。
※Schulz-Hardtら(2006)の実験結果を簡略化した図です。研究には135組の3人グループが参加しました。
それでも、この研究は、最初から全員が一致していることを、必ずしも会議の長所として捉えるべきではないと考えさせます。
心理的安全性があれば、重要な情報は出てくるのか
異なる情報や反対意見を持っていても、それを発言できなければ、意思決定には使えません。この問題を考える際に、よく取り上げられるのが「心理的安全性」です。エイミー・エドモンドソンは1999年の論文『Psychological Safety and Learning Behavior in Work Teams』で、チームの心理的安全性と学習行動の関係を研究しました。
ここでいう心理的安全性とは、チームの中で対人的なリスクを取っても安全だという、メンバー間で共有された認識を指します。わからないことを質問する、自分の間違いを認める、ほかの人と異なる意見を述べる。こうした行動によって、他人から否定的に評価されたり、恥をかいたりすることを過度に恐れなくてよいと感じられる状態です。
安心して話せることと、何でも肯定されることは違う
心理的安全性という言葉を聞くと、優しい雰囲気のチームを想像するかもしれません。しかし、異なる意見が出ないことや、対立を避けることが、心理的安全性の高い状態を意味するわけではありません。むしろ、必要なときには異論を述べられることが重要になります。
例えば、部下が「その前提には疑問があります」と発言したとき、上司が内容を検討せずに否定してしまう組織では、次から異論が出にくくなるかもしれません。一方、上司がその指摘の根拠を確認し、必要であれば自分の考えを見直すのであれば、部下は次も問題を報告しやすくなる可能性があります。ただし、意見を尊重することは、その内容を無条件に採用することではありません。
心理的安全性だけで、十分なのか
エドモンドソンの1999年の研究では、製造業企業の51チームを対象に、心理的安全性とチームの学習行動などの関係が検討されました。結果は、心理的安全性と学習行動の間に関連があることを示していました。ただし、これは、心理的安全性を高めれば、どのようなチームでも必ず成果が向上するという因果関係を証明したものではありません。
さらに、心理的安全性が高いとしても、会議に必要な情報が自動的に共有されるとは限りません。参加者がそもそも重要な情報を持っていない場合や、情報を持っていても、その情報が今回の判断に関係すると認識できていない場合もあるでしょう。心理的安全性は重要な条件の一つかもしれませんが、それだけですべての問題が解決するわけではないのだと思います。
多様な人材がいれば、集合知は生まれるのか
では、多様な人材を集めれば、それだけで意思決定の質は高まるのでしょうか。2004年、ダーン・ファン・クニッペンバーグらは、集団の多様性とパフォーマンスの関係について、先行研究を踏まえた統合的なモデルを提示しました。この研究が扱った重要な問題の一つは、多様性が集団のパフォーマンスに与える影響が、一貫していないということです。
異なる知識や経験を持つ人が集まれば、新しい情報や視点を得られる可能性があります。一方で、考え方や背景の違いが、互いへの不信感や対立を生む場合もあります。研究者たちは、集団の多様性が情報の精緻な検討につながる場合と、社会的な分類や偏見によって、その過程が妨げられる場合を考えました。つまり、多様性が存在すること自体と、その多様性を活用できることは、別の問題なのです。
集団の知性は、個人の能力の合計なのか
2010年、アニータ・ウーリーらは、集団が複数の課題に取り組む際の成績を分析し、「集合知因子」と呼ばれる統計的な要素を報告しました。研究では、二人から五人で構成されるグループを対象に、さまざまな課題を実施しています。その結果、集団の成績は、メンバー個人の平均的な知能だけでは十分に説明できず、他者の感情や意図を読み取る能力を測る指標や、会話への参加の偏りの少なさなどとも関連していました。
しかし、この分野の研究についても、結論は一つに定まっているわけではありません。2017年、ティモシー・ベイツとシヴァニ・グプタは、別の研究で集団の課題成績を調べ、個人の知能が集団成績の違いを強く説明するという結果を報告しました。この研究では、2010年の研究で示唆された会話への参加の偏りの少なさなどの関連は、同じようには支持されませんでした。
集合知をめぐる研究は、
同じ結論に至っていない
2010|Woolleyら集合知因子を報告
集団の成績は、個人の平均的な知能だけでは十分に説明できず、他者の感情を読み取る力や、会話への参加の偏りの少なさとも関連
2017|Bates & Gupta個人の知能が強く説明
個人の知能が集団成績の違いを強く説明。会話への参加の偏りの少なさなどの関連は、同じようには支持されず
「人材が大切」とも「対話が大切」とも、
単純には言い切れない。
※本文で紹介した二つの研究を比較した独自の図です。研究の対象や課題は同一ではありません。
したがって、会議で発言時間を均等にすれば、必ず集団の能力が高まると断定することはできません。どのような仕事に取り組むのか。どのような専門知識が必要なのか。そして、その知識を集団としてどのように活用するのか。こうした条件によって、集団のパフォーマンスは変わる可能性があります。
異なる意見を、判断の材料にするには
異なる意見があること、異論を出しやすい雰囲気、多様なメンバー。どれも重要な条件の一つですが、それだけで十分ではありませんでした。では、会議で出てきた異論を、どう判断に生かせばよいのでしょうか。
結論が決まりかけているときこそ、異なる情報を確認する
例えば、リニューアルによって成果が改善するという方向に議論がまとまったとします。
そのときに、実施しなくてもよい理由はないでしょうか。
ほかの施策を優先するべきだという情報はないでしょうか。
想定している成果が得られないとすれば、何が原因になるでしょうか。
こうした問いは、会議の結論を否定するためではありません。判断の根拠を確かめるためのものです。ゲイリー・クラインが提案した「プレモーテム」という方法では、計画がすでに失敗したと仮定し、その原因を参加者に考えてもらいます。これは、まだ起きていない失敗を仮想的に振り返ることで、懸念を表面化させるための実務的な手法です。ただし、プレモーテムについて、あらゆる会議で意思決定の質が改善すると断定できるわけではありません。
情報の正しさも、検討する
しかし、珍しい情報や、ほかの人が知らない情報が、必ず重要だとは限りません。例えば、営業担当者が一人の顧客から強い不満を聞いていたとします。それは、検討すべき重要な情報です。しかし、その顧客の意見が、ほかの顧客にも当てはまるかどうかは、別に確かめる必要があります。
専門家の意見も同じです。例えば、エンジニアが深刻な技術的なリスクを指摘したとします。専門家の知識を尊重することは重要です。しかし、専門家にも誤りはありますし、専門領域の外にある問題については、十分に判断できない場合もあります。必要なのは、その情報がどのような根拠に基づいているのかを確認することだと思います。
どのような問題が起こると予測しているのか。
その予測には、どの程度の確実性があるのか。
問題を回避するために、どのような選択肢があるのか。
つまり、共有されていなかった情報を集めることと、その情報を正しいと判断することは、別の仕事です。
会議の目的は、全員の意見を平均することではない
重要なのは、異なる意見が存在すること自体ではないのでしょう。その違いの背後に、どのような情報があるのかを理解することです。同じ案を支持する二人でも、異なる根拠を持っているかもしれません。反対する人が、ほかの人が知らない重要な情報を持っている場合もあります。そして、意見が一致していたとしても、全員が同じ誤った情報に基づいて判断している可能性があります。
だからこそ、会議で何人が賛成しているのかを確認する前に、何を根拠にその判断をしているのかを知る必要があると思います。
おわりに|異論を増やすより、判断の根拠を深める
議論の前に意見が分かれていることは、判断の改善につながる場合があります。心理的安全性は、異論を述べやすくする条件の一つかもしれません。多様なメンバーは、新しい情報や視点をもたらす可能性があります。しかし、どれも、それだけで会議をよい判断に導くわけではありませんでした。
私は、異なる意見を出す人を、議論を難しくする存在として捉えたくありません。その意見の背景に、ほかの人がまだ知らない情報があるかもしれないからです。一方で、反対意見を出すこと自体を目的にするべきでもありません。必要なのは、意見の対立を増やすことではなく、判断の根拠を深めることなのでしょう。
会議が円滑に進むことは大切です。限られた時間で結論を出す必要もあります。ただ、全員が気持ちよく賛成できたというだけで、よい意思決定ができたと考えないようにしたいと思います。
そして、最後に一つの問いが残ります。異なる意見が出たとき、私たちはその内容ではなく、誰が言ったのかによって、受け止め方を変えていないでしょうか。
参考文献・出典
以下は、本文の学術的な説明に関する主な参照文献です。Web制作・マーケティング・組織運営への接続と、会議設計に関する提案は筆者自身の考察です。
- Schulz-Hardt, S., Brodbeck, F. C., Mojzisch, A., Kerschreiter, R., & Frey, D. (2006). Group Decision Making in Hidden Profile Situations: Dissent as a Facilitator for Decision Quality(新しいタブで開きます). Journal of Personality and Social Psychology, 91(6), 1080–1093. 議論前の意見の違いと判断の質についての実験研究。
- Edmondson, A. (1999). Psychological Safety and Learning Behavior in Work Teams(新しいタブで開きます). Administrative Science Quarterly, 44(2), 350–383. チームの心理的安全性と学習行動の関係についての研究。
- van Knippenberg, D., De Dreu, C. K. W., & Homan, A. C. (2004). Work Group Diversity and Group Performance: An Integrative Model and Research Agenda(新しいタブで開きます). Journal of Applied Psychology, 89(6), 1008–1022. 集団の多様性と情報処理、パフォーマンスの関係を整理した研究。
- Woolley, A. W., Chabris, C. F., Pentland, A., Hashmi, N., & Malone, T. W. (2010). Evidence for a Collective Intelligence Factor in the Performance of Human Groups(新しいタブで開きます). Science, 330(6004), 686–688. 集団の課題成績と集合知因子に関する研究。
- Bates, T. C., & Gupta, S. (2017). Smart Groups of Smart People: Evidence for IQ as the Origin of Collective Intelligence in the Performance of Human Groups(新しいタブで開きます). Intelligence, 60, 46–56. 個人の知能と集団の成績の関係を検討した追試・関連研究。
- Klein, G. (2007). Performing a Project Premortem(新しいタブで開きます). Harvard Business Review. 計画が失敗したと仮定することで、事前に懸念を引き出す実務的な方法。



