ある企業が、Webサイトのリニューアルを検討しているとします。参加するのは、営業、マーケティング、制作の責任者です。

営業担当者は、顧客から「競合との違いがわかりにくい」と言われることが増えていると感じています。マーケティング担当者は、アクセス解析から、サービスページの閲覧数が伸び悩んでいることを把握しています。制作担当者は、サイトの情報構造が複雑になっており、コンテンツを追加するたびに、別のページとの整合性を取る必要があると考えています。

それぞれが、異なる問題を知っています。こうした人たちが集まって話し合えば、一人では気づかなかった課題を発見できそうです。しかし、会議が始まると、少し違ったことが起こりました。

経営者が「今のサイトは古く見えるので、デザインを刷新したい」と話します。営業担当者も、顧客からデザインについて意見をもらったことがあるため、賛成しました。マーケティング担当者も、競合サイトと比べて見た目に改善の余地があることは認めています。制作担当者も、デザインの刷新が不要だとは考えていません。こうして会議は、比較的早い段階で、デザインリニューアルの方向にまとまりました。

しかし、最初にそれぞれが持っていた情報は、十分に議論されたのでしょうか。

営業担当者が感じていた、競合との違いが伝わっていないという問題。
マーケティング担当者が把握していた、サービスページへの流入の問題。
制作担当者が懸念していた、情報構造の複雑さ。

これらは、デザインを変えるだけでは解決しない可能性があります。会議には、それぞれの問題を知る人が参加していました。それでも、最終的な判断には十分に反映されませんでした。ここで、私は一つのことが気になります。

情報を持っている人が会議に参加することと、その情報が意思決定に使われることは、同じではないのではないか。

前回の記事では、多数決によって選ばれた案が、必ずしも正しい案になるとは限らないことを考えました。しかし、多数決を行う前に十分な議論をすれば、それで問題は解決するのでしょうか。会議の参加者が持っている情報を、すべて適切に共有できているとは限りません。むしろ、話し合うことによって、すでに多くの人が知っている情報ばかりが重視される可能性もあります。

Questions多数決で決まったことは、正しいことなのか?コンドルセ、トクヴィル、アローから、集団の意思決定を考える。

今回は、集団意思決定の心理学研究を手がかりに、会議で重要な情報が見落とされる理由を考えてみたいと思います。なお、冒頭の企業の事例は、論点を説明するための仮想例です。

専門家が集まれば、知識は一つにまとまるのか

企業の意思決定では、複数の専門家が集まって議論することがあります。経営者、事業責任者、マーケター、デザイナー、エンジニア。それぞれ異なる知識や経験を持っています。だから、全員で話し合えば、一人ではできない判断ができるようになると考えられます。

この期待には、十分な理由があります。例えば、マーケティング担当者だけでは、技術的な制約を正確に把握できない場合があります。エンジニアだけでは、顧客が商品を選ぶ理由について、十分な情報を持っていないかもしれません。経営者は、事業上の優先順位を判断できますが、現場で起きている細かな問題まで把握しているとは限りません。こうした人たちが情報を持ち寄ることで、より多面的に状況を理解できる可能性があります。

しかし、ここには一つの前提があります。それぞれが持っている情報が、実際に議論の場へ持ち込まれるという前提です。

情報は、集まるだけでは共有されない

例えば、あるプロジェクトについて、Aさんだけが重要な顧客の発言を知っているとします。Bさんは、競合企業が新しいサービスを準備していることを知っています。Cさんは、技術的な制約によって、予定している機能を実現するには大幅な追加費用が必要になると把握しています。これらの情報を集めれば、プロジェクトの判断は変わるかもしれません。

しかし、会議でAさんが顧客の話をしなければ、その情報はほかの人に伝わりません。Bさんが競合の情報を重要だと思わなければ、議論に出てこないかもしれません。Cさんが、すでに決まりかけている方針に反対しにくいと感じていたら、技術的な制約について十分に説明できない可能性があります。

その結果、組織全体では必要な情報を持っていても、意思決定をする集団としては、その情報を利用できない状態になります。個人が持っている知識と、集団で利用できる知識の間には、距離があるのです。この距離を研究したのが、ガロルド・スタッサーとウィリアム・タイタスによる集団意思決定の実験です。

1985年の実験が示した「隠れた情報」の問題

1985年、スタッサーとタイタスは『Pooling of Unshared Information in Group Decision Making: Biased Information Sampling During Discussion』という論文を発表しました。彼らが研究したのは、集団のメンバーが、それぞれ異なる情報を持っているとき、話し合いによって適切な判断ができるのかという問題です。研究では、架空の候補者についての情報を参加者に与え、集団で誰を選ぶべきか議論してもらいました。ここで重要なのが、情報の配り方です。

全員が同じ情報を持っているわけではない

例えば、三人で候補者を選ぶ場面を考えてみます。全員が知っている情報では、Aさんが優れた候補者に見えています。しかし、各参加者には、Aさんについての問題点や、Bさんの優れた点に関わる追加情報が、別々に与えられています。一人が持っている情報だけでは、Aさんを選びたくなるかもしれません。しかし、三人がそれぞれ持っている情報を持ち寄れば、Bさんの方が適切な候補者であることがわかる。

このような情報の配分を、研究では「隠れた情報構造(Hidden Profile)」と呼びます。正しい判断に必要な情報は、集団全体には存在しています。しかし、一人ひとりに見えている情報は、その一部だけです。したがって、集団で話し合うことによって、互いに知らなかった情報を共有できれば、判断の質が高まる可能性があります。

ところが、実験では、期待どおりに情報が統合されるとは限りませんでした。話し合いは、参加者全員が知っている情報や、すでに支持している候補者に有利な情報に偏りやすかったのです。その結果、集団全体では適切な判断に必要な情報がそろっていたにもかかわらず、十分に活用できない場合がありました。

なぜ、みんなが知っている話ばかりになるのか

ここには、いくつかの理由が考えられます。

全員が知っている話ほど、
会議に出てきやすい

  1. 01言及される機会誰でも持ち出せる一人しか知らない情報は、その人が話さなければ出てこない。
  2. 02理解のしやすさ「そのとおりだ」と反応できる初めて聞く情報は、正確さや重要性の確認が必要になる。
  3. 03結論との一致支持する結論に合う多くの人が同じ結論を支持していると、それに合う情報が重視される。

一つの心理的な理由だけで、
すべてを説明できるわけではない。

実際の研究では、記憶や情報の評価、参加者の当初の好みなど、複数の要因が検討されている。

※情報共有の偏りを説明する要因を、筆者が整理した図です。網羅的な分類ではありません。

私がこの実験で興味深いと感じたのは、会議の参加者が意図的に情報を隠しているとは限らないという点です。全員が真剣に話し合っていても、情報の偏りは起こり得ます。そして、会議が盛り上がっていたとしても、重要な情報が共有されているとは限らないのです。

情報は全員の手元にある。
しかし、誰も全体を知らない

A案とB案、どちらを採用するか。評価に使う情報が、3人の担当者に分散していると仮定する

  1. 営業担当 全員が知る情報A案 +4 本人だけの情報|顧客の声B案 +2 本人にはA案が有利に見える
  2. マーケ担当 全員が知る情報A案 +4 本人だけの情報|市場調査B案 +2 本人にはA案が有利に見える
  3. 制作担当 全員が知る情報A案 +4 本人だけの情報|実装上の知見B案 +2 本人にはA案が有利に見える

情報を正しく統合すると

A案|共通知識

+4

同じ情報は1回だけ数える

B案|3人の固有情報

+6

+2 + +2 + +2

全員が個別にはA案を支持していても、
情報を持ち寄るとB案が優位になる場合がある。

※隠れた情報構造(Hidden Profile)の概念図です。得点は構造を説明するための架空の例で、実際の研究で使用された数値ではありません。

25年間の研究から、何がわかったのか

スタッサーらの研究以降、隠れた情報構造を用いた集団意思決定の研究が続けられました。2012年、リー・ルー、コニー・ユアン、ポピー・マクラウドは、それまでの研究をまとめたメタ分析を発表しました。論文のタイトルは『Twenty-Five Years of Hidden Profiles in Group Decision Making: A Meta-Analysis』です。この研究では、65件の研究、3,189グループを対象に、隠れた情報が集団の意思決定にどのように影響するかを検討しています。

共有情報は、固有情報よりも議論されやすい

メタ分析では、グループの話し合いで、参加者が共通して持つ情報の方が、特定の参加者だけが持つ情報よりも多く言及される傾向が確認されました。さらに、全員が必要な情報を持っている条件と比べて、情報が参加者の間に分散している隠れた情報条件では、正しい答えを見つけられる可能性が大幅に低くなっていました。論文では、隠れた情報条件のグループが解決に成功する見込みは、全情報を持つ条件と比較して、およそ8分の1だったと報告されています。

ただし、これは研究で設定された実験課題についての集計結果です。一般企業の会議で、意思決定の成功率が常に8分の1になるという意味ではありません。また、扱う情報の量や課題の性質、グループの人数などによって、結果は異なります。それでも、この研究は、集団の中に情報が存在するだけでは、適切な判断が実現するとは限らないことを示しています。

「何分話したか」より「どの情報が出たか」

このメタ分析でもう一つ重要なのが、共有されていない情報をどのように評価するかという点です。研究者たちは、議論された情報のうち、固有情報が占める割合だけでなく、そもそも存在していた固有情報のうち、どれだけが議論に持ち込まれたのかも検討しました。その結果、後者のような情報の網羅性の方が、意思決定の質と強く関連していました。

これは、会議の進め方を考える際にも重要だと思います。例えば、会議で新しい情報について10分間議論したとします。それは、意味のある時間だったかもしれません。しかし、ほかにも重要な情報が存在していたのに、議論に出てこなかったとしたらどうでしょうか。一つの新しい情報を深く検討することと、必要な情報を十分に集めることは、別の問題です。

私は、ここに会議の難しさがあると思います。

話し合いが長く続いていること。
全員が積極的に発言していること。
そして、重要な情報が意思決定に使われていること。

これらは、必ずしも一致しません。

会議で話題になった情報が、
重要な情報とは限らない

全員が知る情報が、固有情報よりも議論されやすい傾向が確認されている

共有情報|みんなが知っている、話しやすい情報

固有情報|一人しか知らず、抜け落ちやすい情報

※線の長さは違いを示す模式表現で、実測された件数や割合ではありません。

Research Base

65研究

3,189グループを対象としたメタ分析

Key Finding

約1/8

隠れた情報条件の解決見込み(全情報を持つ条件との比較)

会議の時間を増やすだけでなく、
まだ共有されていない情報を確かめる。

※数値はLuら(2012)の実験研究のメタ分析によるものです。実際の企業会議で同じ比率が生じるという意味ではありません。

反対意見があることは、判断の質を高めるのか

では、会議で重要な情報を引き出すためには、どうすればよいのでしょうか。一つの可能性は、異なる意見を持つ人がいることです。

2006年、シュルツ=ハルトらは、隠れた情報構造を持つ課題において、議論前の意見の違いが意思決定の質に与える影響を調べました。研究には、135組の3人グループが参加しています。参加者たちは、人材選考に関する四つの選択肢について議論しました。この実験でも、適切な判断に必要な情報は、参加者の間に分散しています。

結果は、議論前の意見の分かれ方によって異なりました。

議論前の意見の違いが、
ほかの情報を検討するきっかけになる

隠れた情報構造を持つ人材選考の課題で、議論前の意見の違いと判断の質を比べた

議論前から全員一致同じ案を支持している

対立が少なく、会議は効率的に進みそうに見える

  • 最初の判断を支持する情報ばかりに注目する
  • 自分だけが持つ別の情報の重要性に気づきにくい

全員が同じ不適切な候補を支持していたグループは、隠れた情報の問題をほとんど解決できなかった

議論前から意見が分かれる異なる案を支持している

適切な答えを見つける割合が高くなった

  • 最初の結論を当然のものとして扱わない
  • ほかの情報を検討するきっかけが生まれる

議論前に正しい候補者を支持している人がいなくても、判断が改善される場合があった

必ず反対する人を置けばよい、
という意味ではない。

研究が扱ったのは、議論前から存在する意見の違い。反対意見を演じることが同じ効果を生むとは証明されていない。異論があっても、根拠を検討できなければ判断は難しくなる。

※Schulz-Hardtら(2006)の実験結果を簡略化した図です。研究には135組の3人グループが参加しました。

それでも、この研究は、最初から全員が一致していることを、必ずしも会議の長所として捉えるべきではないと考えさせます。

心理的安全性があれば、重要な情報は出てくるのか

異なる情報や反対意見を持っていても、それを発言できなければ、意思決定には使えません。この問題を考える際に、よく取り上げられるのが「心理的安全性」です。エイミー・エドモンドソンは1999年の論文『Psychological Safety and Learning Behavior in Work Teams』で、チームの心理的安全性と学習行動の関係を研究しました。

ここでいう心理的安全性とは、チームの中で対人的なリスクを取っても安全だという、メンバー間で共有された認識を指します。

例えば、わからないことを質問する。
自分の間違いを認める。
ほかの人と異なる意見を述べる。
問題が起きたことを報告する。

こうした行動によって、他人から否定的に評価されたり、恥をかいたりすることを過度に恐れなくてよいと感じられる状態です。

安心して話せることと、何でも肯定されることは違う

心理的安全性という言葉を聞くと、優しい雰囲気のチームを想像するかもしれません。しかし、異なる意見が出ないことや、対立を避けることが、心理的安全性の高い状態を意味するわけではありません。むしろ、必要なときには異論を述べられることが重要になります。

例えば、ある提案について、上司と部下の意見が異なっていたとします。部下が「その前提には疑問があります」と発言したとき、上司が内容を検討せずに否定してしまう組織では、次から異論が出にくくなるかもしれません。一方、上司がその指摘の根拠を確認し、必要であれば自分の考えを見直すのであれば、部下は次も問題を報告しやすくなる可能性があります。

ただし、心理的安全性があることと、部下の指摘が必ず正しいことは別です。意見を尊重することは、その内容を無条件に採用することではありません。むしろ、意見を出しやすくすると同時に、その根拠をきちんと検討する必要があります。

心理的安全性だけで、十分なのか

エドモンドソンの1999年の研究では、製造業企業の51チームを対象に、心理的安全性とチームの学習行動などの関係が検討されました。結果は、心理的安全性と学習行動の間に関連があることを示していました。ただし、これは、心理的安全性を高めれば、どのようなチームでも必ず成果が向上するという因果関係を証明したものではありません。

さらに、心理的安全性が高いとしても、会議に必要な情報が自動的に共有されるとは限りません。例えば、参加者がそもそも重要な情報を持っていない場合です。また、情報を持っていても、その情報が今回の判断に関係すると認識できていない場合もあるでしょう。発言の機会はあっても、議論の時間が足りなければ、十分に検討できないかもしれません。

だから、心理的安全性は重要な条件の一つかもしれませんが、それだけですべての問題が解決するわけではありません。会議でどのような情報を集めるか。誰がどの情報に詳しいのか。出てきた情報を、どのように評価するか。そうした設計も必要になるのだと思います。

誰が何を知っているのかを、把握することの意味

ここまでの研究から、もう一つ重要な問題が見えてきます。会議の参加者が何を知っているかを、ほかの参加者が理解しているかどうかです。

1995年、スタッサー、デニス・スチュワート、グウェン・ウィッテンバウムは、『Expert Roles and Information Exchange during Discussion』という研究を発表しました。研究では、参加者たちが架空の事件について異なる手がかりを持ち、集団で犯人を推理する課題を扱っています。ここでも、正しい判断に必要な情報は、参加者の間に分散していました。

研究者たちは、参加者それぞれに、誰がどの領域の情報を持っているのかを知らせる条件などを比較しました。その結果、誰がどの情報に詳しいのかを互いに理解しているグループでは、固有情報が議論されやすくなり、正しい判断に至る割合も高くなりました。一方、単に個人へ専門的な役割を割り当てるだけでは、同じ効果は得られませんでした。

担当を決めることと、互いの知識を理解すること

例えば、Webサイトのリニューアル会議で、マーケティング担当者、デザイナー、エンジニアが参加していたとします。役割は明確です。しかし、誰が具体的にどのような情報を把握しているのかは、明確でないかもしれません。必要なのは、判断に関わる情報が、どこに存在するのかを理解することなのだと思います。

担当を決めることと、
誰が何を知るかを知ること

Roles専門的な役割を割り当てる

それだけでは、固有情報の議論や判断の改善に同じ効果は得られなかった

Who knows what誰が何に詳しいかを互いに知る

固有情報が議論されやすくなり、正しい判断に至る割合も高くなった

職種名だけでは、情報の所在はわからない

顧客インタビューマーケティング担当者より、営業担当者が詳しい場合がある

運用中のサイトの問題デザイナーより、エンジニアが具体的に把握している場合がある

会議の前に、自分だけが把握している
情報は何かを尋ねてみる。

その情報を誰が詳しく説明できるのかも共有する。ただし、専門家とされる人が誤った情報を持っている可能性もあるため、根拠まで確認する。

※上段はStasser, Stewart & Wittenbaum(1995)の結果を簡略化したもの、下段は筆者が設定した仮想例です。

ただし、こうした方法の効果を、すべての組織や会議で保証できるわけではありません。重要な情報の所在が、事前にはわからない場合もあるでしょう。

多様な人材がいれば、集合知は生まれるのか

ここまで、異なる情報を持つ人々が集まることの重要性について考えてきました。では、多様な人材を集めれば、それだけで意思決定の質は高まるのでしょうか。この問題についても、慎重に考える必要があります。

多様性には、可能性と難しさの両方がある

2004年、ダーン・ファン・クニッペンバーグらは、集団の多様性とパフォーマンスの関係について、先行研究を踏まえた統合的なモデルを提示しました。この研究が扱った重要な問題の一つは、多様性が集団のパフォーマンスに与える影響が、一貫していないということです。

異なる知識や経験を持つ人が集まれば、新しい情報や視点を得られる可能性があります。一方で、考え方や背景の違いが、互いへの不信感や対立を生む場合もあります。異なる情報を持っていても、それを十分に検討できなければ、よい判断にはつながらないかもしれません。研究者たちは、集団の多様性が情報の精緻な検討につながる場合と、社会的な分類や偏見によって、その過程が妨げられる場合を考えました。つまり、多様性が存在すること自体と、その多様性を活用できることは、別の問題なのです。

私は、この違いが重要だと思います。異なる専門性を持つ人を会議に参加させることはできます。しかし、その人たちが互いの情報を理解し、必要なときには考え方を修正できるかどうかは、会議の進め方にも影響されるでしょう。

集団の知性は、個人の能力の合計なのか

集団の能力については、もう一つ興味深い研究があります。2010年、アニータ・ウーリーらは、集団が複数の課題に取り組む際の成績を分析し、「集合知因子」と呼ばれる統計的な要素を報告しました。研究では、二人から五人で構成されるグループを対象に、さまざまな課題を実施しています。その結果、集団の成績は、メンバー個人の平均的な知能だけでは十分に説明できず、他者の感情や意図を読み取る能力を測る指標や、会話への参加の偏りの少なさなどとも関連していました。この結果は、集団の能力を、単に優秀な人材を集めることだけで説明できない可能性を示しています。

しかし、この分野の研究についても、結論は一つに定まっているわけではありません。2017年、ティモシー・ベイツとシヴァニ・グプタは、別の研究で集団の課題成績を調べ、個人の知能が集団成績の違いを強く説明するという結果を報告しました。この研究では、2010年の研究で示唆された会話への参加の偏りの少なさなどの関連は、同じようには支持されませんでした。

集合知をめぐる研究は、
同じ結論に至っていない

2010|Woolleyら集合知因子を報告

集団の成績は、個人の平均的な知能だけでは十分に説明できず、他者の感情を読み取る力や、会話への参加の偏りの少なさとも関連

2017|Bates & Gupta個人の知能が強く説明

個人の知能が集団成績の違いを強く説明。会話への参加の偏りの少なさなどの関連は、同じようには支持されず

「人材が大切」とも「対話が大切」とも、
単純には言い切れない。

※本文で紹介した二つの研究を比較した独自の図です。研究の対象や課題は同一ではありません。

したがって、会議で発言時間を均等にすれば、必ず集団の能力が高まると断定することはできません。もちろん、発言機会が一部の人に偏り、重要な情報が出てこない状況には問題があります。ただし、発言時間の平等と、判断の正確さは別に確かめる必要があります。

この研究上の違いからも、一つのことがわかります。「優秀な人材よりも、コミュニケーションが大切だ」とも、「コミュニケーションよりも、優秀な人材を集めることが大切だ」とも、単純には言い切れないのです。どのような仕事に取り組むのか。どのような専門知識が必要なのか。そして、その知識を集団としてどのように活用するのか。こうした条件によって、集団のパフォーマンスは変わる可能性があります。

会議で本当に必要な情報を引き出すには

結論を急ぐ前に、情報をそろえる

会議に必要なのは、全員に同じことを話してもらうことではなく、判断に必要な情報を持ち寄ること

  1. 01個人の情報を集める会議前に、それぞれが知っている事実・懸念・仮説を整理する。
  2. 02共通情報と固有情報を分ける全員が知っていることと、一部の人しか知らないことを区別する。
  3. 03まだ出ていない情報を確認する誰が何を知っているのかを確認し、固有情報を議論する。
  4. 04異なる意見と根拠を検討する反対意見を集め、情報の正確さや重要性を確かめる。
  5. 05決定し、見直す条件を残す判断の理由と、再検討が必要になる条件を記録する。

Checkpoint

会議を終える前に確かめたいこと

  • まだ誰かしか知らない情報はないか。
  • 反対意見の根拠を、十分に検討したか。
  • 結論に必要な情報と、まだ不明なことを区別できているか。

すべての会議で、
事前に情報を整理する必要はない。

日常的な小さな判断では、かえって非効率になる。事業の方向性や大きな投資に関わる判断でこそ意味がある。

※集団意思決定の研究から着想を得た筆者独自の会議設計フレームです。特定の研究者が提唱した公式の手順ではありません。

ここまでの研究を読んで、私は会議の進め方を少し見直したいと思いました。これまで、よい会議というと、参加者が積極的に発言し、議論が活発に行われ、明確な結論が出ることを考えがちでした。もちろん、それらにも意味があります。しかし、議論が活発であることと、重要な情報が十分に検討されたことは、必ずしも同じではありません。むしろ、会議で何が話されなかったのかにも、目を向ける必要があるように思います。

まず、個人の考えを集めておく

例えば、新しい事業の方向性を決める会議があったとします。会議の冒頭で、経営者が自分の考えを説明するのではなく、参加者それぞれが、現在の状況についてどのように理解しているかを先に確認します。

自分が持っている情報。
重要だと考えている課題。
まだ確かめられていない前提。

そうしたことを、短い文章で整理してもらいます。そのうえで、共通している認識と、参加者によって異なる認識を分けて考えます。最初から結論を出すのではなく、何を知っていて、何を知らないのかを確かめるわけです。

まだ出ていない情報を尋ねる

次に、議論の中で、参加者全員が知っている情報ばかりが繰り返されていないかを確認します。例えば、誰もが知っている市場規模のデータについて長く議論していたとします。そのとき、まだ話していない重要な顧客の声や、技術的な制約はないでしょうか。また、参加者の中に、他の人とは違う情報を持っている人がいないでしょうか。

ここでは、単に「何か意見はありますか」と尋ねるよりも、具体的に確認した方がよい場合がありそうです。例えば、顧客については営業担当者へ。運用上の問題については制作担当者へ。市場環境についてはマーケティング担当者へ。何を知っているのかを確認します。ただし、職種によって知識を固定的に決めつけないことも重要でしょう。どの情報を誰が持っているのかは、案件ごとに異なるからです。

反対意見を、判断の材料にする

さらに、すでに結論が決まりかけているときこそ、異なる情報を確認したいと思います。例えば、リニューアルによって成果が改善するという方向に議論がまとまったとします。

そのときに、実施しなくてもよい理由はないでしょうか。
ほかの施策を優先するべきだという情報はないでしょうか。
想定している成果が得られないとすれば、何が原因になるでしょうか。

こうした問いは、会議の結論を否定するためではありません。判断の根拠を確かめるためのものです。

ゲイリー・クラインが提案した「プレモーテム」という方法では、計画がすでに失敗したと仮定し、その原因を参加者に考えてもらいます。これは、まだ起きていない失敗を仮想的に振り返ることで、懸念を表面化させるための実務的な手法です。ただし、プレモーテムについて、あらゆる会議で意思決定の質が改善すると断定できるわけではありません。今回は、重要な反対情報を引き出すための方法の一つとして参考にしたいと思います。

情報の正しさも、検討する

ここまで、会議に出てこない情報を引き出すことについて考えてきました。しかし、珍しい情報や、ほかの人が知らない情報が、必ず重要だとは限りません。その情報が誤っている可能性もあります。

例えば、営業担当者が一人の顧客から強い不満を聞いていたとします。それは、検討すべき重要な情報です。しかし、その顧客の意見が、ほかの顧客にも当てはまるかどうかは、別に確かめる必要があります。また、制作担当者が技術的な問題を懸念していても、現在の技術や別の実装方法によって解決できる可能性もあるでしょう。

つまり、共有されていなかった情報を集めることと、その情報を正しいと判断することは、別の仕事です。大切なのは、少数しか知らない情報だから優先することではありません。意思決定に影響する情報を見落とさず、その根拠を適切に検討することなのだと思います。

議論を増やすより、議論に出ていないことを考える

今回、集団意思決定の研究を調べながら、自分自身の仕事についても考えました。企画や戦略を検討するときには、さまざまな関係者が参加します。それぞれの人が、専門的な知識を持っています。また、同じ課題についても、異なる立場から見ていることがあります。こうした人たちが集まることには、確かに価値があると思います。

しかし、会議で全員が発言し、意見を出し合ったからといって、必要な情報をすべて検討したとは限りません。むしろ、参加者が共通して理解できる話題ほど、議論しやすいのかもしれません。

例えば、「競合よりデザインが古い」という意見には、多くの人が反応できます。しかし、「特定の顧客層に必要な情報が届いていない」という問題を理解するには、顧客の行動や情報探索について、もう少し詳しく調べる必要があるでしょう。また、「現在の情報構造では、今後のコンテンツ追加によって運用費用が増える」という問題には、システムや運用の知識が必要かもしれません。

話しやすいことと、判断にとって重要なことは、同じではありません。そして、全員が理解しやすい問題だけを扱っていれば、組織が持っている専門性を十分に活用できなくなる可能性があります。

全員が理解できることだけで、決めない

ここで、一つ難しい問題があります。専門家の意見が重要だとしても、その専門性を持っていない人が、どうやって適切に評価するのでしょうか。例えば、エンジニアが深刻な技術的なリスクを指摘したとします。経営者やマーケティング担当者は、その技術について詳しくないかもしれません。この場合、専門家が言っているのだから、そのまま従うべきなのでしょうか。

私は、そう単純には考えたくありません。専門家の知識を尊重することは重要です。しかし、専門家にも誤りはありますし、専門領域の外にある問題については、十分に判断できない場合もあります。必要なのは、その情報がどのような根拠に基づいているのかを確認することだと思います。

どのような問題が起こると予測しているのか。
その予測には、どの程度の確実性があるのか。
問題を回避するために、どのような選択肢があるのか。
そして、それぞれにどのような費用や影響があるのか。

こうしたことを整理できれば、専門的な内容をすべて理解できなくても、経営上の判断を行うための材料を得られるかもしれません。専門家の知識を活用することと、専門家に意思決定を丸投げすることは、同じではないのです。

会議の目的は、全員の意見を平均することではない

今回の研究を通して、私が最も考え方を変えたのは、この点かもしれません。これまで、会議で異なる意見が出ることには意味があると思っていました。今でも、そう考えています。ただ、重要なのは、異なる意見が存在すること自体ではないのでしょう。その違いの背後に、どのような情報があるのかを理解することです。

同じ案を支持する二人でも、異なる根拠を持っているかもしれません。反対する人が、ほかの人が知らない重要な情報を持っている場合もあります。そして、意見が一致していたとしても、全員が同じ誤った情報に基づいて判断している可能性があります。

だからこそ、会議で何人が賛成しているのかを確認する前に、何を根拠にその判断をしているのかを知る必要があると思います。そして、まだ会議に出ていない情報についても考えたいと思います。

おわりに|情報を集めることと、情報を使うこと

会議には、さまざまな役割や専門性を持つ人が集まります。そのこと自体には意味があります。一人では把握できないことを、複数の人で理解できる可能性があるからです。しかし、今回の研究が示していたのは、情報を持っている人が集まるだけでは、十分ではないということでした。

スタッサーらの実験では、集団全体に必要な情報が存在していても、話し合いで十分に利用されない場合がありました。その後のメタ分析でも、全員が知っている情報が、特定の人しか知らない情報よりも多く議論される傾向が確認されています。また、議論の前に意見が分かれていることや、誰がどの情報を持っているのかを互いに理解していることが、判断の改善につながる場合があることもわかりました。

ただし、こうした研究の多くは、正しい答えが設定された実験課題を扱っています。実際の企業の意思決定では、複数の目標や価値が対立し、明確な正解が存在しない場合もあります。だから、研究結果をそのまま会議運営の公式として使うことはできません。

それでも、私は今回の学習から、一つの重要な視点を得ました。会議で誰が発言したか、何人が賛成したかだけでなく、どのような情報が判断に使われたのかを考えることです。

特に、集団の中では一人しか知らない情報に、もっと関心を持ちたいと思います。もちろん、それが正しい情報だとは限りません。しかし、共有されていないという理由だけで、判断から抜け落ちてしまうのはもったいないことです。

また、異なる意見を出す人を、議論を難しくする存在として捉えたくありません。その意見の背景に、ほかの人がまだ知らない情報があるかもしれないからです。一方で、反対意見を出すこと自体を目的にするべきでもありません。必要なのは、意見の対立を増やすことではなく、判断の根拠を深めることなのでしょう。

会議が円滑に進むことは大切です。限られた時間で結論を出す必要もあります。ただ、全員が気持ちよく賛成できたというだけで、よい意思決定ができたと考えないようにしたいと思います。

よい会議とは、参加者が持っている情報を、判断に必要な形で使える会議なのではないでしょうか。そのためには、話し合いを始める前から、何を知る必要があるのかを考えることが重要なのだと思います。

そして、最後に一つの問いが残ります。

私たちは会議の中で、すでに全員が知っていることばかり確認し、まだ誰かしか知らない重要なことを、聞かないままにしていないでしょうか。

参考文献・出典

以下は、本文の学術的な説明に関する主な参照文献です。Web制作・マーケティング・組織運営への接続と、会議設計に関する提案は筆者自身の考察です。

  1. Stasser, G., & Titus, W. (1985). Pooling of Unshared Information in Group Decision Making: Biased Information Sampling During Discussion(新しいタブで開きます). Journal of Personality and Social Psychology, 48(6), 1467–1478. 隠れた情報構造と、集団の情報共有の偏りに関する研究。
  2. Lu, L., Yuan, Y. C., & McLeod, P. L. (2012). Twenty-Five Years of Hidden Profiles in Group Decision Making: A Meta-Analysis(新しいタブで開きます). Personality and Social Psychology Review, 16(1), 54–75. 65研究・3,189グループを対象としたメタ分析。
  3. Schulz-Hardt, S., Brodbeck, F. C., Mojzisch, A., Kerschreiter, R., & Frey, D. (2006). Group Decision Making in Hidden Profile Situations: Dissent as a Facilitator for Decision Quality(新しいタブで開きます). Journal of Personality and Social Psychology, 91(6), 1080–1093. 議論前の意見の違いと判断の質についての実験研究。
  4. Edmondson, A. (1999). Psychological Safety and Learning Behavior in Work Teams(新しいタブで開きます). Administrative Science Quarterly, 44(2), 350–383. チームの心理的安全性と学習行動の関係についての研究。
  5. Stasser, G., Stewart, D. D., & Wittenbaum, G. M. (1995). Expert Roles and Information Exchange during Discussion: The Importance of Knowing Who Knows What(新しいタブで開きます). Journal of Experimental Social Psychology, 31(3), 244–265. 専門的な情報の所在を互いに知ることの影響を検討した研究。
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