地図を広げて、イギリスの海岸線を眺めてみる。大西洋に面した西側には、複雑な入り江があり、大小さまざまな半島が突き出している。東側には比較的なだらかな海岸が続く場所もある。地図に描かれた輪郭をたどれば、イギリスの海岸線が何キロメートルあるのかを調べられそうだ。
では、実際に測ってみよう。最初に、長さ100キロメートルの物差しを使うことにする。海岸線の端から端へ、物差しを少しずつ動かしていく。入り江や岬があっても、物差しより小さな凹凸は飛び越える。測り終えたら、使った物差しの本数から長さを計算する。
次に、50キロメートルの物差しに持ち替える。すると、先ほど飛び越えていた入り江の一部をたどれるようになる。海岸線は、さっきより長く測られるかもしれない。さらに、10キロメートルの物差しを使ったらどうだろう。今度は小さな岬や湾の形まで、測定に含まれるようになる。より細かな地図を使い、1キロメートル、100メートルと物差しを短くしていけば、もっと細かな凹凸をたどることになる。
同じ海岸線を測っている。
海岸線が伸びたわけではない。
それなのに、測定結果は長くなっていく。
これは、海岸線のパラドックス(Coastline Paradox)として知られる問題である。
普段、長さとは物体に備わっている決まった数値だと考えている。机の幅は、誰が測ってもおおむね同じになる。建物の高さも、適切な測定方法を使えば一定の値に近づいていく。ところが、海岸線では事情が違う。測る精度を高めるほど、必ずしも一つの値に近づくとは限らない。
この奇妙な問題を本格的に研究した人物の一人が、イギリスの数学者ルイス・フライ・リチャードソンだった。
戦争を研究していた数学者が、国境の長さに疑問を抱いた
リチャードソンは1881年に生まれ、気象学や数学、戦争と平和の研究に取り組んだ人物である。彼は、戦争がなぜ起きるのかを、数学的なモデルや統計によって理解しようとした。国同士が隣接していることと、国家間の紛争にはどのような関係があるのだろうか。こうした問題を考えるなかで、国境の長さを調べる必要が生じた。
ところが、国境の長さを調べてみると、同じ国境について異なる数値が報告されている場合があった。例えば、リチャードソンが参照した当時の資料には、スペインとポルトガルの国境について、987キロメートルと1,214キロメートルという異なる値が記載されていた。その違いは、単なる計算ミスとは限らなかった。どの程度細かく国境の曲がり方を測定するかによって、長さが変わりうるからだ。
リチャードソンは、長さの異なる物差しを使って境界線を測る方法を検討し、測定単位と得られる長さの関係を調べた。その研究は1961年の論文「The Problem of Contiguity」にまとめられている。
ここで不思議なのは、国境という人間が決めた線でさえ、必ずしも一つの明確な長さを持たないことである。もちろん、国境の位置を法律や条約によって定めることはできる。しかし、どこを境界とするかを決めることと、その境界線の長さをどの精度で測るかは別の問題だ。まっすぐな線なら、あまり難しくない。しかし、川に沿って曲がる国境や、複雑な地形をたどる境界線では、どの程度の細部まで含めるかが問題になる。
リチャードソンの研究は、自然の曲線について、私たちの直感が必ずしも通用しないことを示していた。
物差しが短くなるほど、
海岸線は長くなる
- 01大きな物差し大きな入り江だけをたどり、小さな凹凸は飛び越える。測定される長さは短め
- 02小さな物差しそれまで飛び越えていた小さな湾や岬も測る。長くなりやすい
- 03さらに小さな物差しより細かな凹凸まで含め、輪郭を細かく近似する。さらに長くなる場合がある
Same変わっていないもの
測定の対象である海岸線
Changed変わっているもの
測定単位と、どこまで細部を含めるか
※リチャードソンの測定方法とマンデルブロの議論をもとにした筆者の概念図です。すべての海岸線で、どの尺度でも長さが一様に増えることを示すものではありません。
円の周りの長さは決まるのに、海岸線では何が違うのか
ここで一つ、数学的な疑問が生まれる。曲線の長さを測るとき、細かな直線を使って近似することは珍しくない。例えば、円周の長さを考えてみよう。
細かく近似すると、
一つの値に近づく線と近づかない線
Circle円周
- 円に内接する正六角形、正十二角形、正二十四角形と、辺の数を増やしていく
- 多角形の周囲の長さは、円周の長さという一定の値に近づく
Complex Curve複雑な凹凸を持つ曲線
- 近似する線分を細かくするほど、新しい凹凸をたどることになる
- 長さが一定の値に収束しない場合がある
数学では、こうした極限を使って曲線の長さを定義できる。
ただし、すべての曲線が円のように振る舞うわけではない。
自然界の海岸線も、ある範囲の測定尺度では、長さが一つの値に収束しない曲線のように振る舞うことがある。
この問題を深く考えたのが、数学者ブノワ・マンデルブロである。マンデルブロは1967年、科学誌『Science』に「How Long Is the Coast of Britain? Statistical Self-Similarity and Fractional Dimension」という論文を発表した。日本語にすれば、「イギリスの海岸線はどれほど長いのか? 統計的自己相似性と分数次元」という意味になる。マンデルブロは、リチャードソンの研究を手がかりに、複雑な地形の輪郭を、新しい幾何学的な考え方から理解しようとした。
彼が注目したのは、海岸線の形が、拡大しても複雑さを失わないように見えることだった。
拡大しても、
複雑さが失われない
Large Map
大きな地図
大きな湾や半島が描かれている
Zoom In
その一部を拡大する
小さな湾や半島が現れる
Zoom In Again
さらに拡大する
もっと細かな凹凸が見つかる
同じ形が正確に繰り返されるわけではない。
それでも、異なる尺度で見たときに、似たような複雑さが現れる場合がある。
この性質を理解するために重要なのが、自己相似性という考え方である。
部分の中に、全体と似た形が現れる
自己相似性とは、ある形の一部分が、全体と似た構造を持っていることを指す。例えば、シダの葉を思い浮かべてみよう。一本の大きな葉には、左右に小さな葉が並んでいる。その小さな葉にも、さらに細かな葉が並んでいる。全体と部分が、ある程度似た形をしている。あるいは、木の枝分かれもそうだ。太い幹から枝が伸び、その枝からさらに細い枝が伸びる。大きな枝分かれと小さな枝分かれには、構造的な類似が見られることがある。
こうした自然の形を理解するために、マンデルブロが発展させたのが、後に広く知られるようになるフラクタル幾何学である。ただし、ここで注意したい。自然界のすべての形が、厳密な意味で自己相似的だというわけではない。
数学のフラクタルと、
自然の海岸線
Mathematical数学的なフラクタル
- 拡大しても、まったく同じ構造が繰り返されるものがある
Natural自然の海岸線
- 岩石の種類、波の作用、地殻変動、侵食などによって形成される
- 似た複雑さが現れる尺度には限界がある
自然の海岸線をフラクタルとして扱うことは、
多くの場合、実際の形を理解するための近似的なモデルである。
それでも、フラクタルという考え方は、自然界の形を理解するための重要な視点をもたらした。まっすぐな線、円、三角形、四角形。私たちが学校で学ぶ幾何学は、整った形を扱うことに優れている。しかし、自然界に現れる形は、必ずしも整っていない。雲の輪郭、山の稜線、樹木の枝分かれ、河川の流路。こうした形には、従来の単純な図形だけでは表現しきれない複雑さがある。
フラクタル幾何学は、その複雑さそのものを数学の対象として扱う方法を示した。
境界線が無限に長いのに、面積は有限の図形
海岸線のパラドックスを理解するうえで、さらに不思議な図形がある。コッホの雪片曲線(Koch Snowflake)である。スウェーデンの数学者ヘルゲ・フォン・コッホが1904年に示した曲線をもとに構成される図形だ。
作り方は比較的簡単である。まず、正三角形を一つ描く。次に、それぞれの辺を三等分し、中央の部分を取り除く。取り除いた部分には、外側へ小さな正三角形の二辺を加える。すると、一つの直線が四つの短い直線に置き換わる。さらに、できあがったすべての辺に対して、同じ操作を繰り返す。何度も繰り返すと、雪の結晶のような複雑な形になっていく。
この図形には、驚くべき性質がある。囲まれた面積は有限なのに、周囲の長さは無限大になる。なぜ、そのようなことが起こるのだろうか。
一つの辺に注目してみよう。最初の辺の長さを1とする。操作を一回行うと、長さが3分の1の辺が四つできる。したがって、合計の長さは3分の4倍になる。二回繰り返せば、さらに3分の4倍になる。三回、四回、五回と繰り返すたびに、全体の長さは増え続ける。正三角形全体の周囲の長さを考えると、次のようになる。
| 操作回数 | 辺の数 | 周囲の長さ |
|---|---|---|
| 0回 | 3本 | 3 |
| 1回 | 12本 | 4 |
| 2回 | 48本 | 16/3 |
| 3回 | 192本 | 64/9 |
| n回 | 3×4n本 | 3×(4/3)n |
※最初の正三角形の一辺を1とした場合の値です。
操作を無限に繰り返せば、周囲の長さも際限なく増えていく。ところが、面積はそうならない。新しく加わる三角形の数は増えるものの、それぞれの三角形は急速に小さくなる。その結果、追加される面積の合計は一定の値に収束する。最終的な面積は、最初の正三角形の面積の5分の8倍になる。
コッホの雪片曲線:
面積は有限、周囲は無限
一つの辺を、四つの辺に置き換える
- STEP 0一本の直線辺の数:1/合計の長さ:1
- STEP 1中央に三角形の山をつくる辺の数:4/合計の長さ:4/3
- STEP 2できた四つの辺に同じ操作を行う辺の数:16/合計の長さ:16/9
操作を続けた先の、二つの異なる結末
Perimeter周囲の長さ
無限大へ発散する
操作を続けるほど、3分の4倍ずつ増え続ける
Area囲まれた面積
有限の値に収束する
追加される三角形が急速に小さくなり、最初の正三角形の8/5倍に収まる
※計算結果はコッホ曲線の数学的な性質に基づき、アメリカ数学会のブログの解説と照合しています。最初の正三角形の一辺を1としています。
境界線は無限に長い。
それでも、図形は無限に広がっていくわけではない。
私たちは普段、「周囲が長いものは、広い場所を囲んでいる」と感じることがある。しかし、数学的には、周囲の長さと面積は必ずしもそのような関係にない。コッホの雪片曲線は、そのことを美しいほど明確に示している。
線なのに、一次元ではないのか
フラクタル幾何学には、もう一つ興味深い特徴がある。私たちは、点を0次元、線を1次元、平面を2次元、立体を3次元として学ぶ。ところが、フラクタルでは、1と2の間にあるような次元を考える場合がある。マンデルブロの1967年の論文が重要だったのは、こうした分数次元を、地形の複雑さと結びつけて考えた点にある。
コッホの曲線では、一つの線分が、元の3分の1の長さを持つ四つの線分に置き換わる。その自己相似的な構造から、次元は次のように表せる。
D = log 4 / log 3 ≒ 1.262
通常の線よりも複雑だが、平面全体を埋め尽くすわけではない。その中間に位置する複雑さを、分数次元として表している。ただし、これは普通の意味で「1.262個の方向に動ける」ということではない。ここでいう次元は、図形を細かく見たとき、どのように構造の数や複雑さが増えるかに関係している。
コッホの曲線は、厳密に同じ構造を繰り返す数学的な図形である。しかし、自然の海岸線については、そのような厳密な自己相似性が無限に続くと考える必要はない。実際の海岸線を調べる研究では、測定した尺度の範囲で、複雑さの変化を近似的に表すことになる。
なめらかな線と平面のあいだにある、
輪郭の複雑さ
- 1なめらかな線通常の線は1次元
- 約1.02南アフリカの海岸線比較的なめらかな輪郭
- 約1.25イギリス西岸入り組んだ輪郭
- 約1.262コッホ曲線log 4 / log 3。平面(2次元)を埋め尽くすわけではない
海岸線の値は、研究上の推定値である。
マンデルブロがリチャードソンのデータから示した値で、対象や測定尺度、解析方法に依存する。海岸線が永遠に同じ次元を保つことを意味しない。
※海岸線の値はマンデルブロ(1967)によります。
ここで興味深いのは、フラクタル次元が、長さとは別の形で輪郭の複雑さを表そうとしていることである。一本の海岸線について、唯一の長さを決めることが難しくても、その輪郭がどのような尺度で、どの程度複雑になっていくかを調べることはできる。
数字が一つに定まらないからといって、その形について何も理解できないわけではない。むしろ、従来の長さという尺度だけでは捉えきれなかった性質を、別の数学的な方法で理解できるようになったのである。
実際の海岸線も、無限に長いのだろうか
ここで、数学的な図形と現実の海岸線を区別しておきたい。コッホの雪片曲線は、無限回の操作を行うことを前提とした数学上の図形である。そのため、周囲の長さが無限大になることを厳密に示せる。しかし、現実の海岸線が、そのまま無限の長さを持っていると結論づけることはできない。
数学的なフラクタルは、自然の形を理解するための有力なモデルである。しかし、自然界にあるすべての凹凸が、無限に同じ規則で続くわけではない。また、海岸線の測定結果は、物差しの長さだけで決まるわけでもない。
海岸線の長さには、
二つの異なる問題が重なっている
Resolutionどの程度細かく測るか
- 物差しの長さ、つまり測定の尺度によって結果が変わる
- 岩石は無限に細かな構造を持つわけではなく、海岸の形は波や風、地殻変動などで変化している
Definition何を境界線とするか
- 満潮時と干潮時では、海と陸の境界が変わる
- 河口をどこまで含めるか、小さな島の輪郭を含めるかは、測定の目的によって変わる
- アメリカ海洋大気庁(NOAA)は、潮汐の影響を受ける場所では、平均高潮位に対応する線を海岸線とする
- アメリカ地質調査所(USGS)も、海岸線の定義は航海、法律上の境界、海岸変化の研究、生態学的な調査など、用途によって異なると指摘している
両者は関係しているが、同じではない。
そして、どちらも実際の測定では重要になる。
つまり、海岸線について長さを一つ示すためには、まず何を海岸線として測るのかを決める必要がある。
地図は、なぜ細かな凹凸を省略するのか
地図を見ると、海岸線は一本のなめらかな線として描かれていることが多い。しかし、現地の海岸線がそのようになめらかであるとは限らない。小さな岩場や入り江、砂浜の凹凸をすべて描こうとしたら、地図は非常に複雑になるだろう。そこで、地図を作る際には、表示する縮尺や用途に応じて、情報を整理する必要がある。地図学では、こうした処理を「総描(generalization)」と呼ぶ。
同じ海岸線でも、
地図によって描かれる形が変わる
- 世界地図大陸や国の形を把握する細かな凹凸の多くは省略する。一つひとつの小さな湾を描き込んでも、ほとんどの人には見分けられない
- 地域の地図地域の地形や湾の位置を把握する中程度の細部まで表現する
- 港湾の海図港への入港・航行に使う局所的な海岸の形や水深に関する情報を詳しく表現する
Detail詳細に描くほどよい場合
局所的な地形を把握したいとき。小さな湾や岩場が重要な意味を持つ調査では、それらを消してしまえば問題になる
Generalize細部を整理したほうがよい場合
広い地域の位置関係を把握したいとき。大陸や国の輪郭が重要なら、省略が必要になる
同じ地域についての地図でも、
目的が変われば、必要な細部が変わる。
※三種類の地図の比較は、筆者による説明のためのモデルです。
1973年、David DouglasとThomas Peuckerは、デジタル化された線を、形の特徴を保ちながら少ない点で表現するためのアルゴリズムを発表した。現在では、彼らの名前を取ってDouglas–Peuckerアルゴリズムと呼ばれている。この方法では、線の形を表す点のうち、一定の条件で省略できる点を取り除いていく。すべての点を残すのではなく、必要な形の特徴を維持するために、線を単純化するのである。
ここには、興味深い逆転がある。私たちは、細かく描かれた地図ほど正確だと考えやすい。しかし、細部を増やすことが、いつもよい地図につながるとは限らない。地図の目的によっては、細かな情報を省略したほうが、重要な特徴を把握しやすくなる。
地図の正確さは、単に情報がどれだけ細かいかだけでは決まらない。
何を表すための地図なのか。
その目的に対して、必要な精度が保たれているか。
そのことも重要なのである。
正確に測るとは、何をすることなのか
海岸線のパラドックスは、一見すると、数学の中にある不思議な例外のように見える。しかし、そこから考えられることは、海岸線だけに限らない。私たちは、さまざまなものを測定している。距離、時間、温度、面積、人口、経済活動。数字を用いることで、異なる対象を比較できる。その便利さは、現代の社会にとって欠かせない。
ただし、測定するときには、何を測るのかを決める必要がある。例えば、ある街から別の街までの距離を測るとしよう。
同じ二つの街のあいだにも、
いくつもの「距離」がある
- 直線距離二つの地点を、まっすぐに結んだ長さ
- 道路に沿った距離車で移動するときの道のり
- 徒歩の経路の距離実際に歩いて移動できる経路の長さ
それぞれ違う数値になるが、
どれかが必ず間違っているわけではない。
直線距離が知りたい場合もあれば、実際に歩く距離が知りたい場合もある。測定の目的が異なれば、適切な方法も異なる。
※マンデルブロの研究をそのまま一般化したものではなく、測定という行為についての筆者の考察です。
ただし、これは、どのような数値でも正しいという意味ではない。測定対象と方法を明確にしたうえで、再現可能な手順を用いれば、その条件における測定の正確さを検討できる。重要なのは、測定条件を曖昧にしたまま、数値だけを比較しないことである。
海岸線の場合、物差しの長さを変えることによって、結果が変わる。別の対象では、観察する時間や分類の方法によって、結果が変わることもあるだろう。だから、ある数値を目にしたとき、その値がどのような方法によって得られたのかを知ることには意味がある。
もちろん、日常生活であらゆる数値の測定方法を調べる必要はない。ただ、数字が示されるまでの過程に、何らかの判断が含まれていることを知っているだけでも、数字との付き合い方は少し変わるかもしれない。
海岸線は、まだ地図の中に収まっていない
最後に、もう一度、地図を広げてみよう。イギリスの海岸線は、一本の線として描かれている。その線には、なめらかな部分もあれば、細かく入り組んだ部分もある。しかし、その地図をどれほど長く眺めていても、現地にあるすべての凹凸を知ることはできない。
さらに細かな地図を見れば、別の形が現れる。実際の海岸に立てば、地図には描かれていなかった岩の形や砂浜の起伏が見えるだろう。そして、波が寄せては引いていく。海と陸の境界は、目の前でも動いている。
数学者は、そうした複雑な輪郭を理解するために、フラクタルという考え方を発展させた。地図を作る人々は、世界を理解しやすくするために、必要な線を選び、細部を整理してきた。海岸線の長さが測定方法によって変わることは、測定が無意味であることを示しているわけではない。むしろ、一つの数値では表しきれない複雑さを、数学によって理解しようとする営みの面白さを示している。
地図に描かれた海岸線は、実際の海岸の完全な複製ではない。それでも、地図は私たちを海へ連れていってくれる。
世界を正確に知ろうとすることと、世界のすべてを一つの数字に収めることは、同じではない。海岸線を眺めていると、そんな当たり前のようで不思議な違いに気づかされる。
参考文献・出典
図解の区分や比較は、研究の知見をもとにした筆者による整理です。測定についての最後の考察は、マンデルブロの研究を一般化したものではなく、筆者の考えです。一部の文献は、公開されている抄録・書誌情報・解説をもとに確認しています。
- Mandelbrot, B. (1967). How Long Is the Coast of Britain? Statistical Self-Similarity and Fractional Dimension(新しいタブで開きます). Science, 156(3775), 636–638. フラクタル幾何学と海岸線の測定問題についての中心的な文献。イギリス西岸・南アフリカの海岸線の次元の値もこの論文による。
- Richardson, L. F. (1961). The Problem of Contiguity: An Appendix to Statistics of Deadly Quarrels. General Systems Yearbook, 6, 139–187. 国境・海岸線の測定と尺度の関係についての先行研究。
- von Koch, H. (1904). Sur une courbe continue sans tangente, obtenue par une construction géométrique élémentaire. Arkiv för Matematik, Astronomi och Fysik, 1, 681–702. コッホ曲線の原典。
- American Mathematical Society, Graduate Student Blog (2013). Koch Snowflake(新しいタブで開きます). コッホの雪片曲線の周囲の長さと面積(最初の正三角形の8/5倍)の計算。
- Husain, A., Reddy, J., Bisht, D. & Sajid, M. (2021). Fractal dimension of coastline of Australia(新しいタブで開きます). Scientific Reports, 11, 6304. リチャードソンの方法による海岸線の測定とフラクタル次元についての後続研究。
- Douglas, D. H. & Peucker, T. K. (1973). Algorithms for the Reduction of the Number of Points Required to Represent a Digitized Line or Its Caricature(新しいタブで開きます). Cartographica, 10(2), 112–122. デジタル化された線を少ない点で表現するアルゴリズム。
- NOAA Shoreline Website. C-COAST Glossary(新しいタブで開きます). 潮汐の影響を受ける場所では、平均高潮位に対応する線を海岸線とする定義。
- U.S. Geological Survey. Shoreline Definition in Emergent Wetland Environments(新しいタブで開きます). 海岸線の定義が、航海・法律上の境界・研究などの用途によって異なることの解説。



