ある企業で、新規顧客がなかなか増えないとします。担当者は、「新規顧客を獲得するには、ブランドの認知度を高める必要がある」という仮説を立て、調査を始めました。認知度調査の数字は低く、顧客へのインタビューでも「このブランドを知らなかった」という声が出てきました。
調べるほど、仮説を支持するデータが見つかります。担当者は、認知度を高める施策が必要だと確信します。しかし、もしこの仮説が間違っていたとしたら、この調査はそれを示すことができたのでしょうか。
仮説に合うデータが集まることと、仮説が確かめられたことは、同じではない。
今回は、心理学者ピーター・ウェイソンの「2・4・6」課題と、その後の仮説検証をめぐる研究を手がかりに、自分の仮説をどう確かめればよいのか、そして自分の偏りに気づくだけで公平に判断できるのかを考えてみたいと思います。なお、冒頭の企業の話は、論点を説明するための仮想例です。
自分の仮説に合う例を、試したくなる
すでに持っている信念や仮説を支持する情報を探したり、それに沿って情報を解釈したりする傾向を、心理学では「確証バイアス」と呼びます。確証バイアスを考えるときによく紹介されるのが、心理学者ピーター・ウェイソンによる1960年の研究です。ウェイソンは、人々が自分の仮説をどのように検証しようとするのかを実験しました。
実験の参加者には、「2・4・6」という三つの数字が提示されます。これらの数字には、研究者が決めた規則があります。参加者は別の三つの数字を提案し、それが規則に合っているかどうかについてフィードバックを受けながら、規則を推測します。
例えば、「2・4・6」を見て、「偶数が2ずつ増えることが規則だろう」と考えたとします。そうすると、次のような数字を提案したくなります。
「8・10・12」
これも規則に合っていると告げられれば、最初の仮説は正しいように感じられます。しかし、ここで注意したいことがあります。「8・10・12」は、「偶数が2ずつ増える」という仮説にも、「数字が大きくなっていく」という、より広い規則にも当てはまります。そのため、正しいというフィードバックが返ってきても、二つの仮説を区別できません。
一方、「3・5・8」という数字を試したらどうでしょうか。これは「偶数が2ずつ増える」という仮説には当てはまりません。しかし、「数字が大きくなっていく」という規則には当てはまります。もしこれも正しいと告げられれば、最初の仮説を見直す必要が出てきます。
どちらの質問が、
仮説を検証できるか
ウェイソンの「2・4・6」課題
最初の予想「偶数が2ずつ増える」
-
8・10・12
自分の仮説に合う
別の規則と区別できない
-
3・5・8
自分の仮説には合わない
より広い規則と区別できる
元の仮説だけでなく、
競合する仮説を区別できる質問を考える。
実験で研究者が設定していた規則は、数字が昇順に並ぶという、参加者が考えがちなものより広い規則でした。ウェイソンの実験では、参加者が自分の考えた規則に当てはまる例を繰り返し試し、十分に仮説を吟味しないまま結論に至る場合が観察されました。
この研究が示したのは、仮説を支持する事例を探すだけでは、その仮説が正しいかどうかを十分に判断できない場合がある、ということです。
肯定的な事例を調べることは、間違いなのか
ここは重要な点です。「人は自分の仮説を支持する情報を探す。だから、それは間違った方法だ」と単純に考えることもできません。
1987年、ジョシュア・クレイマンとヤンウォン・ハは、『Confirmation, Disconfirmation, and Information in Hypothesis Testing』という論文で、人間の仮説検証の仕方を改めて検討しました。彼らは、仮説が成立すると思われる事例を中心に調べる行動を「ポジティブ・テスト戦略」として整理しています。そして、この戦略が、必ずしも不合理とは限らないことを論じました。
例えば、ある病気の特徴を調べる場合や、特定の条件に当てはまる対象を効率的に見つけたい場合には、仮説が成立しそうな事例を調べることが有効な場面もあります。重要なのは、その調べ方によって、競合する仮説を区別できるかどうかです。
仮説を支持する例を調べること自体が問題なのではありません。同じ結果が別の説明でも生じるのに、その可能性を検討しないことが問題になります。
この議論を知ると、「確証バイアスを避けるためには、常に反証を探せばよい」とも言い切れなくなります。どのような情報を集めれば、自分が考えている仮説と、それ以外の仮説を区別できるのか。その調査設計こそが重要なのだと思います。
調査結果に合わせて仮説を変えることは、悪いことなのか
ここで、少し難しい問題があります。実際の企画では、調査を進めるなかで仮説が変わることは珍しくありません。最初からすべての仮説を決めておくことはできませんし、新しい情報に触れて考えが変わるのは自然なことです。だから、調査結果を見てから解釈や仮説を考えること自体を否定するつもりはありません。
しかし、最初から仮説が存在していたかのように説明することは、別の問題です。科学研究では、結果がわかった後に立てた仮説を、あたかも研究前から設定していた仮説のように報告することを「HARKing」と呼びます。ノーバート・カーは1998年の論文で、この問題を検討しています。
もちろん、科学研究におけるHARKingと、企業の提案資料で課題を整理することは、同じ行為ではありません。目的も、求められる厳密さも異なります。ただ、結果を知ってから説明を組み立てることと、説明の妥当性を事前に検証することは、区別する必要があります。
「この課題があったから、この解決策を選んだ」
そう説明できるとしても、本当にその順番で考えたとは限りません。この点は、私自身も気をつけたいと思っています。
自分の偏りに気づけば、公平に判断できるのか
では、確証バイアスという概念を知っていれば、自分の判断を公平にできるのでしょうか。そう簡単ではないと思います。
まず、「自分には確証バイアスがあるかもしれない」と考えるだけでは、具体的にどの判断が偏っているのかはわかりません。さらに、反対意見を集めれば必ず判断が改善されるわけでもありません。反対意見にも誤りがあるかもしれませんし、単に異なる立場の情報を同じ量だけ集めることが、常に公平な調査になるとは限らないからです。大切なのは、賛成と反対の意見を機械的に均等に扱うことではなく、それぞれの根拠を適切に評価することです。
また、人間の認識の偏りには、さまざまな形があります。情報を探す段階で偏ることもあれば、同じ情報を評価する段階で偏ることもあります。そもそも、特定の情報が手元に届かないという問題もあるでしょう。これらをすべて確証バイアスという言葉だけで説明すると、問題の違いが見えにくくなります。
そして、ここにはもう一つの危険があります。「相手は確証バイアスに陥っている」と決めつけることで、自分自身の判断を検討しなくなることです。
異なる意見を持つ人が、必ずしも非合理的に判断しているとは限りません。同じ情報を見ていても、そもそも重視する価値や目的が違う場合があります。また、専門知識の違いによって、同じデータから異なる判断を下すこともあるでしょう。
意見が一致しないことと、どちらかが認知バイアスに陥っていることは、同じではありません。
確証バイアスという概念を使って他人の判断を批判する前に、自分の判断の仕方を見直す必要があると思います。
情報収集と自己正当化の違い
自分の答えを守る
- 解決策を決める
- 合う情報を集める
- 都合よく解釈する
- 確信が強まる
仮説を確かめる
- 複数の仮説を立てる
- 区別できる情報を集める
- 同じ基準で評価する
- 必要なら考えを変える
※本文の議論を踏まえた独自の概念図です。実際の思考過程を、すべてこの二つに分類できるわけではありません。
自分の答えを疑うために、何を変えられるか
ここまで考えてきたことを、実際の企画や意思決定の場面でどう扱えばよいのでしょうか。一つの方法は、仮説を立てる段階で、どのような情報が得られたら考えを変えるのかを決めておくことです。
冒頭の「新規顧客を獲得するには、ブランドの認知度を高める必要がある」という仮説で考えてみます。認知度が低いことを示すデータばかり探すのではなく、ほかの説明も並べたうえで、それぞれを区別できる調査を考えます。
ほかの説明を並べてから、
区別できる調査を考える
「新規顧客が増えない」ことを説明し得る仮説
- 認知が足りない最初の仮説
- 購入時に競合に負けている認知は十分でも選ばれない
- 購入場所が限られている知っていても買えない
- 価格や条件が合わない顧客の期待とずれている
それぞれを区別できる調査の設計
- 段階を確かめる認知度の高低だけでなく、認知から購入までのどこに問題があるか
- 買わなかった理由を聞く購入しなかった顧客にも理由を尋ねる
- 対象を広げる検討したものの選ばなかった人にも調査する
※論点を説明するための仮想例です。
そうした設計によって、最初の仮説とは違う原因を発見できる可能性があります。
判断の前提を記録しておく
もう一つ有効だと思うのは、意思決定をした時点で、何を根拠に判断したのかを記録しておくことです。
判断した時点の前提を、
四つに分けて残しておく
- 01事実現時点で確認できている事実は何か
- 02仮説まだ確かめられていない仮説は何か
- 03別の説明ほかにどのような説明が考えられるか
- 04見直す条件どんな結果が出たら、当初の判断を見直すのか
記録を残せば、
必ずバイアスがなくなるわけではない。
反対意見を述べた人が不利益を受けたり、推進した人が撤回を認めにくかったりする組織では、形式的に整理しても結論を変えられない可能性がある。
※筆者による整理です。
こうした記録があれば、後から結果を見て「最初からそうなると思っていた」と説明してしまうことを、ある程度防げるかもしれません。施策がうまくいかなかった場合にも、実行の品質だけでなく、最初の仮説自体を振り返ることができます。ただし、そのためには個人の注意だけでなく、意思決定の進め方や組織の環境も考える必要があります。
おわりに|仮説が間違っていたら、気づけたか
ウェイソンの実験も、クレイマンとハの議論も、仮説を支持する情報を集めること自体を否定するものではありませんでした。問われていたのは、その情報によって、自分の仮説とそれ以外の仮説を区別できるかどうかです。
調査を終えたとき、自分の考えは何も変わっていなかった。それ自体が間違いだとは思いません。十分に調べた結果、最初の仮説が支持されることもあるでしょう。ただ、そのときに一つ確かめたいことがあります。
もし最初の考えが間違っていたとして、今回の調査でそれに気づくことはできたのだろうか。
この問いを持つことが、自分の考えを深めるための一歩になるのではないかと思います。
参考文献・出典
以下は学術的な説明の確認に用いた文献です。現代の企画・ブランディングへの接続や実務例には、筆者自身の考察が含まれます。
- Nickerson, R. S. (1998). Confirmation Bias: A Ubiquitous Phenomenon in Many Guises(新しいタブで開きます). Review of General Psychology, 2(2), 175–220. 確証バイアスの諸形態を整理したレビュー論文。
- Wason, P. C. (1960). On the Failure to Eliminate Hypotheses in a Conceptual Task(新しいタブで開きます). Quarterly Journal of Experimental Psychology, 12(3), 129–140. 規則発見課題を用いた仮説検証の研究。
- Klayman, J., & Ha, Y.-W. (1987). Confirmation, Disconfirmation, and Information in Hypothesis Testing(新しいタブで開きます). Psychological Review, 94(2), 211–228. ポジティブ・テスト戦略の適切さと限界を検討した研究。
- Kerr, N. L. (1998). HARKing: Hypothesizing After the Results Are Known(新しいタブで開きます). Personality and Social Psychology Review, 2(3), 196–217. 研究結果を知ってから仮説を事前のものとして報告する問題を扱った論文。



